将棋先生の「盤上・盤外」この一手

湯の町別府の将棋教室から考察した社会をつづります

『人間はどこから来たのか』を読んだんです

『人間はどこから来たのか』を読んだんです。

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いやあ、面白い本でした。

エンデの『モモ』に「時間泥棒」って言葉が出てきますが、ふと思い出しました。宇宙が生まれ、つまり時間や空間が生まれ、その中で素粒子が僕ら人間という生き物を構成するまでの道のりを、ゆったりと書いてくれています。

そして、すべての「物」が最後には素粒子に戻っていくという運命。それを悲壮感はなく、自然な進捗といった感覚で実に淡々と記ながら、それでいて、暖かさを感じさせる筆力。唸りました。

それもそのはず、著者の森戸 潔 氏は絵本編集者でもあるそうなんです。

だからでしょう、僕にも読める科学本に仕上がっています。

 

 

毛利甚八さんの「にたあ」

毛利さんが亡くなった。

毛利さんは、僕より、少しだけ年長。

少年院でのご縁があり、その研究会で、杉乃井ホテルで同部屋だったことがある。
棚湯につかりながら、その頃、社会を沸騰させた「裁判員制度」について、生意気にも論じさせてもらった。
「家裁の人」を書かれた毛利さんは、その方面の研究をされていて、すごいなあと思わされた。
裁判官だけの力より、ごく一般の人の常識を信じる方が、より効果がある。
そんな考えを聞いた。

真剣な顔と笑顔とのその高度差がすごく、そこが魅力的な方だった。

日本には3つ素敵な場所があります。
その一つが、豊後高田なんです。だから越してきたんです。
そうも、話していた。

杉乃井の窓から、別府を見渡し、進駐軍の話をしてくれた。
僕は別府生まれなのに、知らないことが、たくさんあった。
何にでも、詳しいのだなあと感心させられた。
漫画の原作という仕事、その苦労、難しさ。
真剣に語ってくれた。

なにより、こんな僕に、なんて一生懸命に話してくれるんだろうと不思議にさえ思った。

毛利さんは、罪を犯してしまった少年達にウクレレを教えていた。
ウクレレのなんたるかを知らぬ僕にも、一生懸命に教えてくれた。
「簡単ですよ。ウクレレって、ギターと同じですよ。」
そう言って、にたあと笑うのである。
まさしく、にたあであった。
この「にたあ」なら、少年達もウクレレ好きになるだろうなあと思った。
犯罪を犯した少年達へのまなざしは、僕の一億倍やさしかった。

戦いながら、安らかな方だった。

だから、きっと、亡くなった今も安らかなのだと思う。

僕は、あんなに戦えないし、安らかに生きることも出来ない。
そして、一億倍やさしくなれない。だから、すごい人だなあ、と思う。

せめて、今日くらいは、あの「にたあ」を真似したいと思う。

でも、明日はきっと出来ない。

情けないけれど、それが、僕の哀悼の意です。

毛利さん、すごいなあ。

『久山秀子探偵小説選Ⅱ』を読んだんです

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久山秀子探偵小説選Ⅱ』を読んだんですがね。やっぱ、天才ですよ、久山さん。『Ⅰ』は大正ロマンを背景に、女性スリの久山が探偵となってしまう異色の展開が中心の短編集だったんですがね。『Ⅱ』の方は、江戸時代の豪商、由兵衛が大活躍する短編もかなり掲載されてるんですね。これね、もう読んでる内に、江戸にスリップしちゃう感じなんです。極上の描写力。そして、ストーリーの方も、よくぞ、これだけアイデアが出るなあって思いますよ。すげえやって思わず漏れちゃいます。

考えたら、江戸時代って科学捜査なんてないでしょ。指紋捜査もなければ、通話記録だって使えないですよ。だから、犯人捜しも大変ですよね。でも、きちんと読者にもヒントを与えてくれてるんです。そして、快刀乱麻のごとき由兵衛の解決劇。

もう、やめられない、とまらない。ご注意、ご注意。癖になるのが久山ミステリーですぞ。