将棋先生の「盤上・盤外」この一手

湯の町別府の将棋教室から考察した社会をつづります

「泣き虫しょったんの奇跡」を観た。その2「松田龍平の眼」

泣き虫しょったんの奇跡』を観た。

その1「オープニング」は 

einosuke47.hatenablog.com

 

今回はその2.「松田龍平」の眼だ。

 

 

【2】「松田龍平の眼」

すべてのプロ棋士は先を読む天才である。

ここで、先を読むという行為を再確認しておきたい。実のところ、棋士のそれは極めて悲観的なベースを持っている。ある局面で「これは良さそうだ」という手を思いついたとしよう。もちろん相手がどう応じてくるかは、わからない。しかし、いや、だから、読む。こう応じられたら、どうだろう、自分は窮地に陥らないか? この局面は、相手が創り出した罠ではないのか? すでに地雷を踏んでいるのではないか? 悲観がベースになければ、読むという行為が勝利に結びつかない。だからこそ、もっと先を読む。深く読む。だが、最終的な確信に至ることは、まず、ない。確信のないところに、なかば強引に自信を添える。「きっと大丈夫なはずだ」・・。そうやって決断する。

一方で楽観をベースに人生の先を読んだ者だけが、プロ棋士になりえるというパラドックスもある。そうでなければ奨励会という生き馬の目を抜く世界に自らを投じることができない。脱落すれば、今までの自分を否定しかねない世界なのだ。プロ棋士になりたいという情熱は、彼らの類まれなる才能、悲観をベースとした先読みをも一蹴する。これは本作のテーマの一つとなっている。瀬川も同様だ。プロになりたい。きっとなれる。その姿を極めて楽観的に捉えて続けている。しかし、表層に過ぎぬその楽観は、深層という悲観から常にえぐられ続けてもいたのだ。

瀬川は、もらす。
「負けた時は一人でいたくないんですよね」
 
僕がプロ棋士に魅了されるのは、このパラドックスを抱えながら戦う姿に、羨望という感動を覚えるからだ。
いくら人工知能がプロを破ろうとも、この思いは微動だにしない。

さて、瀬川を演じた松田である。監督の豊田は、松田の眼に期待したはずだ。それは、アップシーンの多さから伝わってくる。そして、松田はみごとに演じきっている。瀬川の表層と深層のゆらぎを、その眼に、圧倒的なモノクロ感で宿らせている。僕は、松田の眼によって瀬川へといざなわれた。きっとあの頃の瀬川も同じ眼をしていたに違いない。松田の眼が、瀬川をより深く、僕に知らしめてくれる。次第に松田と瀬川の境界が曖昧になってくる。そして、僕は、松田の眼の奥に吸い寄せられる。ふと気づくと、僕は、瀬川が通った将棋センターで瀬川の横に座っていた。そして、奨励会でも、銭湯でも。カラオケでも「それが一番大事」を豊川と歌っていた。松田、おそるべき役者である。


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資料

泣き虫しょったんの奇跡』(なきむししょったんのきせき)は、将棋棋士瀬川晶司の自伝的ノンフィクション小説.
2018年、映像化された。
年齢制限で奨励会を退会後、諦めきれず脱サラし異例のプロ編入試験に挑むまでの実話だ。
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監督    豊田利晃
脚本    豊田利晃
原作    瀬川晶司
製作    森恭一(企画・プロデュース)
大瀧亮
行実良
平部隆明
製作総指揮    青木竹彦
岡本東郎
出演者    松田龍平
野田洋次郎
永山絢斗
染谷将太
渋川清彦
駒木根隆介
新井浩文
早乙女太一
妻夫木聡
上白石萌音
石橋静河
板尾創路
藤原竜也
大西信満
奥野瑛太
遠藤雄弥
山本亨
桂三度
三浦誠己
渡辺哲
松たか子
美保純
イッセー尾形
小林薫
國村隼
音楽    照井利幸
撮影    笠松則通
編集    村上雅樹
制作会社    ホリプロ
エフ・プロジェクト
製作会社    「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会
配給    東京テアトル
公開    日本の旗2018年9月7日

上映時間    127分

『泣き虫しょったんの奇跡』を観た。その1オープニング

泣き虫しょったんの奇跡』を観た。

f:id:einosuke47:20180921150530j:plain

 

泣き虫しょったんの奇跡 Original Soundtracks by Toshiyuki Terui

泣き虫しょったんの奇跡 Original Soundtracks by Toshiyuki Terui

 

 


そのストーリー展開や演者への評価は、専門家に任せたいし、最終的には、もちろん観客それぞれがくだすものだ。
で、ここで僕は、愛棋家としてこの映画への評価を書きたい。
愛棋家の僕の目に、この映画はどう映ったか・・。
いくつかの項目に分けて綴りたい。

今回はその1,オープニングだ。


【1】オープニング


本作品は、盤上に駒を並べる場面から始まる。
なんと、そこに登場するのは手だけだ。
淡々と置かれる駒。そこには、人物の表情も声も、そしてナレーションさえもない。初代宗家・大橋流で並べられていく駒音のみ。

誰なんだ?
いや、誰でも良い。ため息がもれるように見事な手つきである。僕など、この美しい所作だけでも引き込まれてしまうのだが、他にも「おっ」と思わされた箇所が、オープニングだけで二つある。
一つ目は駒がマスの下線に合わせて置かれていったことだ。
実は、駒の置き方には2通りある。一般に知られているのは、本作品と違い、マスの中央に置く作法だろう。つまり、ここは「おっ、そう来たか」と、うならせる場面なのである。おそらく豊田監督は、このオープニングに大きな自信を持っているはずだ。

(いや、もちろん前編を通して持っているだろうけど)
そして、もう一つ、注目していただきたいことがある。
第一番目に置かれる駒が、大変重要なのだ。具体的に書こう。
最初に置かれる駒は「王将」なのか「玉将」なのか。ここに注目してほしいのだ。
実は、これ、本作品の根幹をなすテーマに関わっていることで、後々、出てくるのでチェックしておけば、より楽しめる。

採用された駒の素晴らしさも併せて、オープニングは隠れた名場面だ。

その2は

einosuke47.hatenablog.com

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資料

 

泣き虫しょったんの奇跡』(なきむししょったんのきせき)は、将棋棋士瀬川晶司の自伝的ノンフィクション小説.
2018年、映像化された。
年齢制限で奨励会を退会後、諦めきれず脱サラし異例のプロ編入試験に挑むまでの実話だ。
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監督 豊田利晃
脚本 豊田利晃
原作 瀬川晶司
製作 森恭一(企画・プロデュース)
大瀧亮
行実良
平部隆明
製作総指揮 青木竹彦
岡本東郎
出演者 松田龍平
野田洋次郎
永山絢斗
染谷将太
渋川清彦
駒木根隆介
新井浩文
早乙女太一
妻夫木聡
上白石萌音
石橋静河
板尾創路
藤原竜也
大西信満
奥野瑛太
遠藤雄弥
山本亨
桂三度
三浦誠己
渡辺哲
松たか子
美保純
イッセー尾形
小林薫
國村隼
音楽 照井利幸
撮影 笠松則通
編集 村上雅樹
制作会社 ホリプロ
エフ・プロジェクト
製作会社 「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会
配給 東京テアトル
公開 日本の旗2018年9月7日
上映時間 127分
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「負けるは巻ける」-心の原稿用紙

この年齢になって、つくづく思うことがあるんです。


へこんだ時、人生の応援団って言葉だよなあって。

それは、誰かからの声援かもしれないし、何気ない一言かもしれません。

本を読んだ。テレビを観た。ラジオで聞いた。ネットで見た。

そんな一文かもしれません。

どんなきっかけにしても、それは耳や目というより心に入ってくる言葉です。

ちょっとかっこよく言うと「心という原稿用紙」に書かれた文字になるんです。

将棋という究極の孤独な競技。声援もコーチもいない対局。

勝ち負けがはっきりする結果。

すべてのことを受け止めて、また、勝負に臨む子ども達。

僕は、僕の「心の原稿用紙に書いてきた文字」を、子ども達に伝えたいのです。

今日は、

「負けるは巻ける」

です。

負けるのはつらいこと、いやなこと。今までの自分をなんだか否定されたような気持ちにもなります。負けから学ぶことがある。それも頭ではわかっています。

でも、やっぱり、将棋で言えば、やめたくなっちゃう。

でもですね。

でも、「負ける」は「巻ける」なんです。

負けると、心のネジが巻けるんです。

これ、いつだってそうなんです。なんだってそうなんです。

負けるは巻ける。心のネジを巻こうじゃありませんか。

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子どもたちが将棋を学ぶということ-1「負けた後」

「負ける」ことはイヤです。誰だって同じでしょう。 でも、人によって同じではないことがあります。 それは、負けた後のことです。 将棋に取り組むということは、負けた後の「心」を育てることだと思います。

 

谷川会長辞任へのニュースに、僕の夢想。

日本将棋連盟谷川浩司会長が辞任するとのこと。

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僕は、こんな夢想をしてます。

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記者「竜王、谷川会長が辞任を表明しました。竜王はどうなさるおつもりですか?」

 

渡辺「会長の辞任についてコメントするつもりはないですし、そんな立場にはありません」

 

記者「竜王ご自身の出処進退は?」

 

渡辺

「私自身、三浦九段を疑ったことは認めます。そして、こういう結論が出たことも重く受け止めています。しかし、いささかの後悔もありません。疑惑があれば、それを放置しない。今後もその姿勢は崩すつもりはありません」

 

記者「では、責任はないと……」

 

渡辺

「私は棋士です。責任のとり方はただ一つ。あらためて三浦九段と勝負をしたい。もし、私が敗れれば、即、引退をします」

 

ざわめききが会見場に広がり、記者たちは三浦九段のもとへ急いだ。

 

記者「三浦さん、竜王は引退をかけて戦いたいと言っています。その言葉について、どう思われますか」

 

三浦

「本来であれば、渡辺さんには竜王位を返上してもらいたいです。
正直に言えば、わだかまりだってある。
しかし、正々堂々の勝負なら、私の望むところです。喜んで戦います。
ただ一つだけ、条件というか、お願いがあります。
立会人は谷川会長にお願いしたい。会長の最後の仕事として見ていただきたい」

 

二人の対局が決まった。

 

竜王戦一番勝負。会場は鶴巻温泉の陣屋旅館。

升田幸三木村義雄との対局を拒否した、あの陣屋である。
行われるはずだったのに行われなかった対局、陣屋事件。
長い年月を経て、行われなかったはずの対局が、今、行われる。
 

歴史はいつも平衡へと向かうものだ。
 

立会人は三浦の希望通り、谷川。
「会長職最後のご奉公、しっかり務めさせていただきます」
陣屋を選んだのは谷川。
死闘の火ぶたが切られた。

 

僕は夢想の岐路に立つ。

 

まずは右の道。

死闘を制した三浦が静かに語る。

「渡辺さん。お願いがあります。引退を撤回し、来年は、僕に挑戦してください。あなたが挑戦者として名乗りを上げることを待っています。そして、その姿を、谷川さん……。谷川さんは会長として見届けてください」

 

左の道。

死闘を制した渡辺が額の汗を拭きつつ語る。

「三浦さん、やはりあなたは強かった。今日勝てたのは、たまたまとしか言いようがない。僕はあなたを疑った。そこに後悔はありません。しかし、あの状況の中、あなたは棋士として戻ってきた。僕なら戻れたかどうか、いやおそらく放り投げていた。三浦さん、ありがとうございました。今日、僕は本当の竜王になれた気がします。三浦さん、ありがとう。」

 

道はひとつになる。

 

涙を浮かべた谷川が二人の手をとる。

「ありがとう。私はこれで心置きなく会長職を辞することができます」

 

三浦が固く握り直す。
「それは、困る。会長を続けてください」

 

渡辺がうなずく。

 

谷川が二人を見る。

「いえ、やめます。そして、次回は挑戦者として竜王位を狙います。渡辺さん、三浦さん、覚悟をしていてください」

如月の望月が障子の隙間から遠慮がちに灯りを伸ばした。

 

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自分勝手な、何の役にも立たぬ夢想です。

でも書きました。失礼のそしりを恐れつつです。恐れずではありません。恐れつつ書きました。

なぜか。

プロとは、そのジャンルにおける行為のすべてを、見る者のジャッジに委ねる存在。

そう信じ、書きました。

そして、今回の問題について、僕は、僕なりの思いを子どもたちに伝えたいと思うのです。


阪田名人問題、そして文中にも出した陣屋事件。将棋界はいろんな問題を乗り越えてきました。

だから、今回の問題も清冽な終焉を迎えてほしい。

そう願います。

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関連記事

オールアバウト「永世名人・谷川浩司は阿弥陀如来を見ている」

 

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追記

「敬称に関して」

文中における個人名の敬称について、下記のように考えています。
(1)プロ棋士の方の活動は公的であると考え、敬称を略させていただきます。
(2)アマ棋士の方には敬称をつけさせていただきます。
(3)その他の方々も職業的公人であると考えた場合は敬称を略させていただきます。