将棋先生の「盤上・盤外」この一手

湯の町別府の将棋教室から考察した社会をつづります

「泣き虫しょったんの奇跡」を観た。その3「イッセー尾形がしみる」

泣き虫しょったんの奇跡』を観た。

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今回はその3.「イッセー尾形がしみる」だ。

 

 

【3】イッセー尾形がしみる

瀬川の最初の師匠として登場するのが将棋道場を営む工藤席主だ。工藤を演じるのはイッセー尾形。イッセーと言えば・・。僕は学生の頃、「お笑いスター誕生」というテレビ番組で若手の頃の、つまり売れる前の彼を観ていた。なんか、つまんないなあと思いながら、である。
一人芝居なんだが、それが、ごく日常の描写であり、オチがない。だから爆笑がない。クスクスはあるんですよ。それは、ある。でも、なんで、これで勝ち抜くんだろう?審査員は何を見てるんだ?そういぶかしんでいた。デビューしても(というかデビューしていたのだろうが)長くはないなあ。である。
しかし。しかしだ。考えれば、僕ら素人だって宴会で裸踊りをすれば、爆笑はとれる、たぶん、とれる。でも、クスクスはとれない、難しい。何より裸踊りは一回きりの暴発、カンフル剤だ。クスクスは漢方。長く効く。
これこそ芸の頂点なのではないか。あの頃の僕には、それがわからなかった。
本作でもイッセーはその至芸をいかんなく発揮している。
ちょっとした場末感。タバコの煙が充満する昭和感。そこにぴったりはまるイッセー。人に人が関わることを良しとした時代。瀬川少年の対局態度や感想戦に横から口を入れる。イッセーは遠くを見つめながら、話す。
「ああ、俺も将棋指しになりたかったなあ」
笑顔の深いところに、ペーソスがそよぐ。
だからだ。
だから、豊田監督は、あのフレーズを、彼に語らせる。ラストシーン近くまで、ためにためておいた、あの言葉を。その頃、イッセーは道場を手放してさえいた。そんな彼が口にするからこそ、光らずに、しみる。
イッセーなくして本作はない。




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資料

泣き虫しょったんの奇跡』(なきむししょったんのきせき)は、将棋棋士瀬川晶司の自伝的ノンフィクション小説.
2018年、映像化された。
年齢制限で奨励会を退会後、諦めきれず脱サラし異例のプロ編入試験に挑むまでの実話だ。
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監督    豊田利晃
脚本    豊田利晃
原作    瀬川晶司
製作    森恭一(企画・プロデュース)
大瀧亮
行実良
平部隆明
製作総指揮    青木竹彦
岡本東郎
出演者    松田龍平
野田洋次郎
永山絢斗
染谷将太
渋川清彦
駒木根隆介
新井浩文
早乙女太一
妻夫木聡
上白石萌音
石橋静河
板尾創路
藤原竜也
大西信満
奥野瑛太
遠藤雄弥
山本亨
桂三度
三浦誠己
渡辺哲
松たか子
美保純
イッセー尾形
小林薫
國村隼
音楽    照井利幸
撮影    笠松則通
編集    村上雅樹
制作会社    ホリプロ
エフ・プロジェクト
製作会社    「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会
配給    東京テアトル
公開    日本の旗2018年9月7日

上映時間    127分