第6章 蘇我氏の時代 (1)「馬子監督と長嶋コーチ」
第6章 蘇我氏の時代 (1)「馬子監督と長嶋コーチ」
前回の記事は下記です。
第5章 古墳時代 「前方後円墳とてるてる坊主」 - 将棋先生の「盤上・盤外」この一手
それでは、新しい章に突入です。
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「あのさあ、蘇我馬子(そが の うまこ)さんって知ってる?」
と、僕がかみさんに聞くと、かみさんはこう言い放った。
「知ってるわよお。それこそ、教科書にものってたもん。
馬子って名前、インパクトあるもんねえ、忘れないわよ。
それにさあ、すごい悪者でしょ、あの人・・・。」
やっぱり、いきなりの悪人扱いだ。
「やっぱり」と書いたのはわけがある。
実は、僕もそう思っていたんですよね、これが・・・。
そこで試しに同級生3人に聞いてみました。
いわく、「蘇我馬子さんには悪役のイメージがあるか?」
その問いに対して、なんと、3人が3人とも
「馬子さん=悪役」だと答えたのだ。
僕とかみさんを含めても100%ですよ。
よってたかって、馬子さんを「悪者」に仕立てちゃってる。
じゃあ、いったい馬子さんの何が「悪」なのか・・・・。
教科書にはこう書いてある。
6世紀の終わり頃、大和朝廷では豪族同士の争いが起き、蘇我氏が権力を握った。
その後、蘇我馬子は推古天皇(すいこてんのう)の摂政(せっしょう)となった聖徳太子と共に政治を行った。
ありゃりゃ、これと言って悪いことなんかしてないじゃないか。
よくよく調べてみると、当時の最高権力者、馬子さんは周囲の反対をおしきってまでも日本に仏教をとりいれようとした人でもあるんだ。
仏教って言えば、日本古来の宗教のような感じもする人がいるかもしれない。
けれど、この当時は、インド生まれのまったくの異国の宗教。
すでに日本には神道という宗教があり、その反発たるやすさまじかったらしい。
一流の「日本料理の店」に入って、いきなり「カレーライス1丁!熱々でねっ。」と叫ぶようなものだ。
相当な覚悟と勇気がいる。
お陰で、日本を2つに分ける戦争にまでなっちゃった・・・。
いずれにしても、その後の仏教の繁栄の基礎は、この馬子さんの力で築かれたと言ってもいいはずだ。
また、朝鮮半島の国々とも交流を深め、その文化を吸収しようともしたらしい・・。
うーん、どうも、悪人の雰囲気はないぞ・・・。
では、彼は権力にとりつかれたひどい独裁者だったのか・・・?
いや、そんなこともなさそうなのだ。
もし・・・。
もし、馬子さんがひどい独裁者だったら、聖徳太子を政治のパートナーとして迎えるだろうか・・?
聖徳太子と言えば、一万円札の肖像にもなったスターだもの。
子どもの頃から天才と呼ばれた人だ。
いや、生まれたときからの奇跡的なエピソードに事欠かないスーパースターなんだもの。
もし、あくどい独裁者なら、聖徳太子のような人物は早々に葬り去ろうとするのではないだろうか?
古今東西の権力者が1番怖れるもの・・・。
それは、ナンバー2の存在だという・・。
いつ、自分の権力の座を奪うかも知れないナンバー2・・・。
そんなナンバー2に聖徳太子という史上まれにみる英雄を迎えるだろうか・・・?
考えてみて欲しい。
これって、「長嶋茂雄」さんをヘッドコーチに迎える野球監督みたいなものなのだ。
たしかにそうすれば、その球団は人気がでるし、お客さんも増える。
ひいては、選手のお給料も上がるだろう。
やる気が出て、優勝もいただきかも知れない。
チームにとっては、ばんばんざいだろう・・・。
でも・・・。
でも、監督自身はどうだろう・・・。
スーパースターのナンバー2は、やりにくくて、やりにくくて、しょうがないんじゃないだろうか。
何をやっても、みんなの目は長嶋さんに向いちゃうだろう。
監督なんて、ただのお飾り、無意味な存在にされちゃうかもしれない。
そんな危険をおかしてまで、長嶋ヘッドコーチを受け入れるだろうか・・・。
それを、やったのが、蘇我馬子さんなのだ。
馬子監督は聖徳太子という長嶋コーチを迎え入れたのだ。
自分の権力を守ることだけを考えていては、こうはいかないだろう。
ね、やっぱり、私欲にまみれた独裁者とは言い難いでしょ。
では、なぜ、その馬子さんに悪役のイメージが植え付けられてしまったのか・・・。
僕は、この謎を解かなければ、大和朝廷の歴史を学ぶ醍醐味はないと思っている。
そして、その謎を解く過程で、突拍子(とっぴょうし)もない、新たな疑問を発見してしまったのだ。
それは、馬子さんだけに関するものではなく、聖徳太子、そして、その後の大和朝廷の歴史そのものにまで及ぶ大きな疑問、いや、疑問の域を超えた疑惑とも言えるものだったのだ。
「おおげさな書き方ねえ・・・。
サスペンスドラマじゃないんだから・・・。
あなたって若い頃から、こんなふうに、もったいぶる癖があったものねえ。
断言してもいいわ。絶対、たいした疑惑じゃないはずよ。」
やはり、かみさんは僕の最高の理解者であった・・・。
下記に続く。