将棋先生の「盤上・盤外」この一手

湯の町別府の将棋教室から考察した社会をつづります

本気の言葉

「本気の言葉」
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僕は以前に小学校の教員をしていました。

その時に感じたこと、今だから思うこと、書きます。

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 自転車がパンクしてしまい、近所の自転車屋さんに出かけました。
僕は運が悪いのか子供時代からよくパンクをしました。
よく、釘をふんじゃうんですね。
被害者意識が強く、「自分の自転車ばかりパンクする」なんて思ってもいました。
「タイヤが鉄で出来ていたらいいのになあ。」とためいきをついてた想い出もあります。

そのお店はおじさんが一人でやっている小さなお店です。

 「おじさん景気はどう?」
「いやあ、さっぱりや。みんな大型店の安売りばっかり買うからなあ。」
「でも修理は増えるんと違うの?」
「だめだめ、もともとが安いから、すぐ買い変えるんやな。」

おしゃべり好きなおじさんは続けました。ちなみに僕は相づちを打つだけでした。
「そしてな、自転車泥棒が増えたらしいんや。駐在さんが言いよった。
 自転車が安くなったから罪の意識が薄くなったんやろうな、とな。
 ほんで、盗んだ自転車は修理せんわな。盗まれた方も、自転車ぐらいでは警察に言ってこんらしい。
 新しい安い自転車をまた買うんや。駅にある放置自転車知ってる?山ほどあるよ。
 自転車が増えて、泥棒が増えて、ゴミが増えて、なんちゅう世の中や。」

そして、おじさんは自分の身の上まで話してくれました。
僕は、修理の度におじさんの店に行くのですが、初めて聞いた話でした。

「今、不景気で貧乏やけどね、昔はもっとひどかった。
 俺は新潟の出身なんよ、日本でも1番雪が多いところや。
 なんせ、半年近く雪にうもれとるんよ。
 畑で何か作ろうと思うても、雪、雪でそれどころやないんや。
 だから野菜なんか大事にしたよ。今みたいに大根の葉っぱ捨てたり、皮捨てたりせんよ。
 飯ん時も絶対こぼさんやったよ。こぼしたら殴られるけんね。
 本気で『いただきます』言わな、怒られよったよ。もう一回言い直しさせられよった。
 お菓子持ってうろつく今の子ども見たら、こいつら、いただきます言うんかなと思うよ。
 本気で言うたことはないやろうなあ。」

パンクの修理が終わりました。

僕たちの先輩は伝えてくれました。
「衣食足りて礼節を知る。」

僕たちは後輩に何と伝えるのでしょうか、、。
「衣食あまりて礼節を忘れる。」では寂しすぎますよね。

おじさんは「ありがとう、また来ておくれ。」と言いました。
お客の僕も「ありがとう」と言って店を出ました。
その「ありがとう」はきっと本気の言葉だったと思います。
今日はパンクのお陰で得した気分でした。