将棋先生の「盤上・盤外」この一手

湯の町別府の将棋教室から考察した社会をつづります

「女王の国」 (3)「ヒミコにぴったしカンカン」

「女王の国」 (3)「ヒミコにぴったしカンカン


女王の国 (2)「マラソンか園長先生か?」 - 将棋先生の「盤上・盤外」この一手

 

 

僕は、「ヒミコ」というのは個人の名前ではなく、「ヒ」という神
に仕える「巫女(ミコ)」のことだと考えた。
では「ヒ」とは何か?
僕のかみさんは「ヒ」は「日」、つまりヒミコは「太陽」に仕える
巫女さんだと推理した。

けれど、僕はこの推理は間違っていると思っている。

それは、陳寿(ちんじゅ)さんの魏志倭人伝(ぎしわじんでん)に
こう書かれているからだ。
前にも一部紹介したが、これは多くの教科書や資料集にも載せられ
ている。

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「ヒミコは宮殿にこもり、その姿を見た者は少ない。ただ一人の男
が食事を運んだりしている。」
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もし・・・。
もし、僕が太陽に使える巫女だったとしたら・・・。
僕は、宮殿にこもっちゃうだろうか?
それで、「僕は太陽に仕えてますよ。」って言えるだろうか?
それを民衆は納得するだろうか?

相手は太陽なのである。
♪手のひらを太陽にすかしてごーらーん。
まーっ赤に流れるー僕の血しおーー♪
の太陽なのだ。
やっぱり、ぎんぎんぎらぎら輝く太陽の下、大空に手をかかげ、祈る・・・。
これが、太陽に仕えるための基本的な演出ではないか!
日の光をさえぎる宮殿の中にいて、太陽もへったくれもないだろう。

たとえば、宝石や鏡みたいに光を受けて輝く物を太陽のかわりに利
用したとしよう。
これを何日間か太陽の下に置いて、
「この宝石(鏡)は太陽の力を吸収したぞ。よって、われは宮殿にこもり、この宝石(鏡)に祈りをささげるぞよ。」
なあんて言う手もあるかもしれない。

けど・・。
けど、本物の太陽は毎日、毎日、空にちゃあんとあるんだもん。
「なんで、わざわざ、かわりの物に祈るの?」ってことになるのが
人情ではないだろうか。
いや、時々なら、それもわかるけど・・。
雨降りとか曇り空とか・・何かの事情で建物の中でやらなきゃいけない儀式とか・・・。
でも、食事までも、ただ一人の男に運ばせ、人々に顔も見せないほど宮殿にこもって祈るってのは、どう考えても「太陽」に仕えているとは言い難い。
うーん、一言で言えば、「太陽信仰」にしては開放的じゃないんだ。

じゃあ、ヒミコの「ヒ」は何を意味するのか・・。
僕はズバリ、「火」だと思ってる。
縄文時代より、家の中心に置かれた「いろり」、つまり「火」・・。
現代に生きる僕だって、火に対してある種の神秘性を感じるなあ・・。
いや、けっして僕だけじゃないでしょ。
キャンプファイヤー、キャンドルのつどい、結婚式のキャンドルサービス、クリスマスのろうそく飾り、仏壇、神事の火・・・。
そうそう、花火だって・・・。
こんな活動が行われているのも「火」に対する神秘性、いや、そこまでいかなくても、何かしらの思いを多くの人が感じているからだと思うな。
そして、「火」は、暗いところ、つまり、建物の中などでは、よりいっそう、その幻想をふくらませてくれるものだ。
おおっ!やっぱり「火」こそ、宮殿にこもってるヒミコにぴったしカンカンじゃないかっ!
(作者注:「ぴったしカンカン」とはあのニュースキャスター「久米弘」さんと「欽」ちゃん、「二郎」さんの名コンビ「コント五五号」が出演していたテレビのクイズ番組。正解すると久米さんが「ぴったしカンカンー」と叫ぶ。)

 

小説・コント55号 いくよ、二郎さん はいな、欽ちゃん

小説・コント55号 いくよ、二郎さん はいな、欽ちゃん

 

 

人類全体の歴史を振り返ったって、「火」に対する信仰はとても古い。
紀元前6世紀頃、ペルシャではゾロアスターって人が「拝火教(はいかきょう)」と訳される信仰をおこしているんだ。
それから約八〇〇年後に生まれたヒミコが、「火」を祈りの対象にしたとしてもなんの違和感もない。

もうひとつ理由がある。
陳寿さんはヒミコのやってる儀式を倭人伝にこう記している。
「鬼道」・・・。
「鬼道」ですよ、「鬼道」。
なにせ、「鬼」だもん。
「鬼」とくれば「太陽」ってイメージじゃないでしょ。
鬼と言えば、燃えさかる「たいまつ」を片手に、叫びまわるイメージ・・。
実際、僕の地元では鬼の面をかぶり、火をふりまわすお祭りが伝わっている。
「鬼」には「火」がぴったり。
「鬼火」って言葉だってあるくらいだもんね。
ねっ。陳寿さんはちゃんと僕らにヒントをくれてたんだ。
「宮殿にこもり、人に会わない。祈る。独身女性。鬼道」。

結論です。
僕は「ヒミコ」とは「火」につかえる「巫女」のことだと考えています。

真昼というのに、うす暗い宮殿の中。
その一室にこもり、祭壇に向かうヒミコ。
そこに置かれた「たいまつ」には、めらめらと炎がゆれている。
なにごとか呪文をとなえた彼女は手に持った粉末(イオウ、あるいはリンのようなものか・・)を火中に投げ込む。
瞬間的に音を立て、燃え上がる炎。
室内に置かれたおびただしい数の鏡が、それぞれの角度から炎を映し出す。
部屋は赤一色に染められ、中心に座ったヒミコは体をふるわせ、叫び声をあげる。

そんな姿を僕は思い浮かべます。

では、今回のかみさんの感想。
「うーん、たしかにヒミコって火の巫女って感じがしてきたなあ。やっぱり、太陽じゃないって感じね。でも、これは、あなたの話の説得力のお陰じゃないわよ。素直で純真な私の納得力のたまものだわ。」

「納得力のたまもの」か・・・。
さすが、かみさん、我が家のヒミコ。ざぶとん一枚やっとくれ!

(次号に続きます。)

 


第3章「女王の国」 その(4)「倭国=さわだ食堂か?」 - 将棋先生の「盤上・盤外」この一手