将棋先生の「盤上・盤外」この一手

湯の町別府の将棋教室から考察した社会をつづります

谷岡ヤスジと昭和元禄

谷岡ヤスジと昭和元禄

 

漫画の傑出した表現方法の1つに「吹き出し」がある。
(「吹き出し」とは、いわゆるセリフを囲っている枠である。)

この「吹き出し」を考えた人は天才だと思う。
「吹き出し」のお陰で「セリフ」が生命を持った。
喜怒哀楽はもちろんのこと、つぶやき、思考、ひいては無言まで「表情」を与えた。

漫画のセリフを脚本や原作のそれとと比べてみると一目瞭然である。
私自身は「字書き」であり、もとより「吹き出し」という武器を持たない。
たとえば、「ちょっぴり嬉しいけれど言葉に出せない無言」と文字であらわすと味気ない。
しかし、「吹き出し」は見事に表現してくれるのだ。
この点に関して漫画表現に脱帽である。

そして、「吹き出し」をさらに進化させた開拓者がいる。
彼は「吹き出し」の殻を突き破った。
彼の独創的なセリフは「吹き出し」の中に収まらなかった。

彼が生きた時代はまさに「高度成長期」昭和元禄
日本全体が「いけいけドンドン」。
個人は目を外に向け、自分を包む何かを突き破りたかった、そんなエネルギーあふれる時代だ。
後に訪れる「バブル時代」ではなく、確かな手応えのある時代だ。

そのような時代に彼の作品はマッチした。
殴り書きのような画法もエネルギー発散の1方法だった。

彼のセリフ「アサー」は日本の先進国としての夜明けを告げる。
「鼻血ブー」は、がんばる勤労者のエネルギッシュな活動を思い起こさせた。
彼、谷岡ヤスジのセリフは「吹き出し」を破る形で表現された。

谷岡作品に接することは昭和元禄のエネルギーを感じることになる。

 

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(了)